私は独立してからずっとアートとサイエンスを駆使したブランディングエージェンシーとして、調査分析からブランド戦略立案、ロゴなどのブランドアイデンティティや広告のクリエイティブ制作、PRまで全方位ブランディングを実行することで、クライアント企業のブランドおよびビジネスを発展させる支援を行ってきました。端的に表現すると従来のブランディング会社にPR会社と広告代理店を足した業務を行なっており、それはそのまま私がこれまで構築してきたキャリアの道筋でもあります。
全方位ブランディングの必要性
ブランディングの仕事は大きく分けて3フェーズあります。まず最初は調査分析、続いてブランド戦略立案。最後にロゴなどのブランドアイデンティティ周辺のクリエイティブ開発です。私は新卒でブランディングエージェンシーに入社し、グループ会社の外資系広告代理店と協働していく中で、ブランディングはロゴなどのブランドアイデンティティ周辺のクリエイティブ制作だけではなくマス広告やPRも含めた全方位のブランドコミュニケーションをマネジメントしていくことが重要だということを痛感しました。
その後、サマンサタバサのプレス(広報)を経て電通の営業へ。大手広告代理店の仕事は大きく分けると営業とクリエイティブの2つで、さらにナショナルクライアントを担当する営業はメディア、PR、マーケティング、グラフィック、CM、販促というようにチーム分業制になっているので、それぞれ完全に領域が違います。ただ、私はブランディングエージェンシーで調査分析から戦略立案、クリエイティブ制作まで一貫して対応してきたことと、事業会社でのPR経験があること、そしてナショナルクライアントであるSoftbankの子会社・Softbank Hawksのアカウントも部長と2人で兼務していたことから、営業ではあるけれど、調査分析、戦略立案、企画立案、PR、クリエイティブディレクション、コピーライティングなど営業とクリエイティブを兼務する仕事もこなしていました(仕事を振る人も時間もない激務の場合は必然的にこうなります)。余談ですが、当時のサマンサタバサは広告代理店を入れずにプレスが自分たちでPR、メディアバイイング、広告クリエイティブ制作、イベントなどを行なっていたので事業会社のPRから電通の営業へという流れも自分の中では違和感なくというか、シームレスな感覚でした。
その後、NIKEの仕事でよく知られているWieden+Kennedy TokyoでGoogleのアカウントを担当して博報堂の営業へ。博報堂ではTiffanyを担当し、メディア業務に従事していました。2011年の年末に退社して、2012年に独立。色々と迷いはありましたが、ブランディングの領域で独立すること、ブランディング会社にはPRと広告の知見がほぼなくPR会社と広告代理店にはブランディングの知見がぼぼないと痛感したことからブランディングを軸にPRと広告の仕事ができるのが自分の独自性とすること、の2点に迷いはありませんでした。
ブランディングのプロになるのは天文学的確率
日本でブランディングのプロ(注:PRと広告領域を除く、狭義でのブランディング領域)はおそらく100〜150人程度だと思います。それは単純にブランディング会社の数が少ないから。振り返ってみると、新卒で外資系ブランディングエージェンシーに入社してグループ会社の外資系広告代理店とも協働できたことも、サマンサタバサのプレスになれたことも、電通に入社してナショナルクライアントを担当しながら兼務案件で営業とクリエイティブの兼務業務に携われたことも、Wieden+Kennedy Tokyoに入社できたことも、博報堂に入社してラグジュアリーブランドを担当できたことも、相当な幸運が舞い込んでこないとできないことだったと思います。さらに、代理店業ではクライアントとのご縁も大切です。新卒から日産自動車や第一三共、東京建物など大手のクライアントのブランディング業務に従事させて頂けたことも、電通で地元福岡発祥のナショナルクライアントSoftbankとその子会社のSoftbank Hawks、WiedenでGoogle、博報堂でTiffanyのアカウントを担当させて頂けたことも同様です。改めて、ブランディングの仕事で独立し、ナショナルクライアントともお仕事をさせて頂き、現時点でAcebrandを12年も続けることができたのも奇跡だと思ってます。
運に恵まれたこと、一見すると華やかな経歴に見えることは事実だと思います。ですが、私は大学進学の段階からずっとキャリア構築を真剣に考えて常に厳しい選択肢を敢えて選んで自分を鍛錬してきましたし、新卒の頃からずっと長時間過重労働が常態化していて人の2倍、3倍の業務量をこなしつつ日々反省を繰り返しながら独学も並行して進めて鍛錬してきました。そして、クライアントファースト、クリエイティブファーストを徹底してきました。当事者との立場では、ハレの部分は1割もなく、9割以上は非常に泥臭く、体育会系で、職人気質な仕事だという認識です。
私はクレデンシャル資料やこのオウンドメディア上でもブランディングのフレームワークの一部を公開してますが、先日とあるベンチャー企業から「フレームワークを使って自分たちでやりたいからやり方を教えてほしい」という問い合わせが来てびっくりしました。私が公開している一部のフレームワークだけを使っても正しいブランディングはできないということをここで強調しておきたいと思います。その理由としては、①公開しているフレームワークは一部だけでブランディングには複数のフレームワーク+αが必要であること、②同じフレームワークを使っても、仮説の立て方や属性の抽出の仕方のテクニックが未熟で、企画や戦略立案、クリエイティブ制作のアプローチが月並みであれば、結果に雲泥の差が出ること、③ブランディングはアートとサイエンスの両方が求められる極めて専門性が高い仕事で、経験に基づいたノウハウや美的感覚、閃きが必要でそれらはブランディングエージェンシーの専売特許であり非公開機密情報であること、の3点が挙げられます。結局のところ、餅は餅屋というコミュニケーション業界の不文律を徹底できる優れた会社が、強いブランドを作ることができるのだと思います。