ブランドと広告

私は新卒で外資系ブランディングコンサル会社に入社しましたが、その会社が同じWPPグループの外資系広告代理店Ogilvy&MatherとのJVだったのでOgilvyの研修を受けたりOgilvyと協働したりすることも多くかなり影響を受けていて、私も「ブランドは広告で作れない」という考えです。ブランドは下記のスライドが端的に示すように、企業のビジネス活動の全てである360°全方位のタッチポイントでブランディング理論に基づいて作られるものであって、広告で作られるものではありません。広告を打ってなくてもPR活動をしてなくてもブランド価値が高い企業や商品・サービスはたくさんあります。

広告にもブランドの視点が必須

私は2005年に大学の図書館で見つけた「ブランディング360度思考」という当時のOgilvy&Mather Japanが出した本に感銘を受けてOgilvy&Mather Japanに連絡し、当時の外資系広告代理店は新卒採用をしていなかったので中途枠で同じグループ会社のブランディングコンサル会社に入社しました。新卒時にOgilvy&Matherの若手社員が参加しているクリエイティブ研修に参加させてもらっていたのですが、2004年に元電通の小田桐昭さんがOgilvy&Mather Japanの最高顧問、チーフ・クリエーティブ・オフィサーに就任されていて、幸運にも小田桐昭さんの研修を(それも、少人数グループで)受ける機会に恵まれました。

確か「クリエイティブにはBIG IDEAが必要だ」がテーマの研修だったとかと思いますが、その途中で受講している若手社員が一人ひとり好きなTVCMを小田桐さんにプレゼンする時間があり、私は当時好きだったオダギリジョーさんが出演されているライフカードのCMが好きですというお話をさせて頂きました。すると小田桐さんが嬉しそうなお顔をされてどうして?と質問をしてくださったので、「『カードの切り方が人生だ』という哲学的なキャッチコピーとコミカルな演出のギャップ、スピーディーな展開、続きはWEBで、というのがとてもオシャレで好きです」とお答えすると更に嬉しそうなお顔をされて、当時の私は能天気にも「小田桐さんもライフカードのCMがお好きなのね」と思ってました。

その直後、小田桐さんが出された著書を何冊か読み進め、ライフカードのCMの制作をされたのがTUGBOADの岡康道さんだということ、そして岡康道さんの電通時代の師匠が小田桐さんだということを知り、そのクリエイティブ研修の一コマを思い出し、「無知、無邪気にも程がある」と本当に恥ずかしい気持ちでいっぱいになりました。(尚、私のこうしたやらかし癖は時々発動します。独立後にマーケティング関連の打ち合わせで今気になる車はと聞かれた際に「レクサスのISシリーズです。汐留に住んでいた頃イタリア街で愛車を撮影する人たちをよく見かけていて、ある時に走りの美しさで衝撃を受けたのがレクサスのISでした。佇まいも凛としていて、静と動が紳士的な美しさで本当に格好良い車だと思います。」と力説し、後でその質問された方がTOYOTAのマーケティング部の方だと発覚した時は、同じように「無邪気にも程がある」と本当に恥ずかしかったです。)

2005年に小田桐さんと岡さんが「クリエイティブ・ファースト」や「ブランドと広告」について言及された対談本を出されたりその前にも岡さんが「ブランド」に関する著書を複数出さていたりして、当時、「ブランドと広告」は広告業界でのキーワードでした。私が所属していた外資系ブランディングコンサル会社と外資系広告代理店では「クリエイティブ・ファースト」と「ブランドは広告で作れない」というフィロソフィーが根付いていたので、キャリアの最初の段階からブランディングの実務、広告の研修と広告代理店との協働、偉大な先輩方の著書などで自然と同じ視点でブランドと広告を見つめ続けることができたのは大きな財産だなと改めて思います。

ちなみに、私はブランディングコンサルからアパレルのプレスを経て電通へ入社し最終的にブランディングの領域で独立したのですが、「ブランドは広告で作れない」という考えはずっと変わらず様々な経験を経てより一層強くなってます。

ブランドを構築するためには

前段が長くなってしまい申し訳ないです。「ブランドは広告では作れない」ということと、「ブランドを構築するためには」ということのお話をするためには、私が新卒からブランドと広告の両軸の視点を持っていてブランディング業務から始めてその後広告業務まで実務経験を拡大してきたという経緯が必要だと考えたので、敢えて書かせて頂きました。

ブランドは広告では作れないというのは序段で纏めた通りなのですが、ここからはブランドを構築するためにはというお話をしていきたいと思います。ブランドを構築するためには、ブランディングの手法を使って360度全方位のタッチポイントをデザインすることが必要です。そしてブランドを広告で発信するなら、ブランドの本質的なメッセージを込めて、1クール2クールという短いスパンではなく2年、3年と中長期的に、同じトンマナを維持して発信していくことが肝要です。

本来であれば、ブランディングプロジェクト(商品と企業ブランドの両方)でブランドを構築してから、その内容を反映した広告を制作しブランドを強く訴求していくという流れが王道です。ですが、ブランドを広告で作ることはできないけれど、広告を制作するプロセスの中でブランディングプロジェクトの要素を取り入れることで、期間と工数をギュッと短縮してブランドを構築することもできます。

また、ブランドコミュニケーションにおける広告の理想の姿は、社名やブランド名などを隠した状態でその広告を見た時にどの企業の広告かどのブランドの広告かが分かる/思い出せる、その印象がブランドとして蓄積されていくというクリエイティブを制作することです。TVCMなどマス広告は特に多額の制作費と媒体費が掛かるため、「認知拡大のためにインパクトのあるクリエイティブを」という思いは分かるのですが、単に社名を連呼するだけの企業広告や過激な表現で炎上を誘発する商品/サービス広告などは短期的に認知度は上げたとしても最悪の場合にはブランドを自ら毀損することにもなりかねません。単にインパクトを求めるのではなくブランディングの知見を活用して「ブランドらしいインパクト(=ブランドの資産として蓄積されていくもの)」を追求することが大切です。さらに、マス広告、WEB、店頭コミュニケーション物など、各タッチポイントで発信するメッセージをどう有機的に設計するかという360°全方位でのコミュニケーション設計をすることも肝要です。

弊社ではブランド広告の制作も行なっており、その場合は私が字コンテを書いて細かい演出とかは制作会社の監督やプランナーと協議しながら作成していくという座組みなのですが、広告も含めてブランドコミュニケーションを正しくマネジメントすることがブランド構築には欠かせないので、CDやCMプランナーのような活用方法に加えて、例えば広告制作のブリーフィング資料の作成依頼や全体監修など、上手くブランディングエージェンシー/会社を活用してブランド構築に繋げて頂ければと思います。