外資系広告代理店の強みと言えるのが、広告のアダプテーション/Adaptation 。アダプテーションとは海外の広告の日本版を制作する業務で、英語のAdaptation(適合、改作という意味)から来てます。実は、外資系広告代理店の中でもアダプテーション業務はあまり人気がないんです。特にクリエイティブの人達は自分たちでゼロからオリジナルを作りたいという思いが強いので、「海外のクリエイターが作った広告の翻訳するだけ」の業務はできるだけ避けたいというのが正直なところみたいです。それに、その「ただの翻訳業務」が非常に難しいのです。
そんな込み入った事情のあるアダプテーションですが、私はすごく得意というか本当にやりがいを感じて楽しい仕事だと心から思っています。法学部出身者だからなのか本来の気質によるものなのかその両方なのだと思いますが、私は制約のある中でのクリエイティブ業務の案件が会社員時代から集中する傾向があって、純粋に「制約があってこそ真のクリエイティブ」だとポジティブに受け止めてます。制約案件のアダプテーション以外の事例としては、例えば、ネーミング開発はキャッチコピー開発よりも文字数や商標、ドメイン、ロゴデザインなどの様々な制約がありますし、化粧品や製薬などは薬機法や厚生労働省のガイドラインという制約があります。その他、予算の縛りが厳しい案件や、おそらくグローバルで一番厳しいNDA基準のクライアント案件などもそうです。
アダプテーション業務の真髄はトランスクリエーション
アダプテーション業務で最も大変なのがキャッチコピーやボディコピー、ナレーションなどを日本語訳すること。ただ単純に翻訳するだけでは不十分で、トランスクリエーションをする必要があるのです。トランスクリエーション(transcreation)とは、翻訳(translation)と創造(creation)とを組み合わせた造語のこと。広告のアダプテーションは、英語圏の文化に基づき、英語ならではの表現・言葉遊びや韻・リズムなどが反映されたオリジナルのコピーを、①そのブランドらしさに基づいて、②日本文化に適応させつつ、③そのコピーのテイストを活かした、日本語版のキャッチコピーに昇華させるという、ブランディングなど様々な条件をクリアすることを求められる非常に難しい業務なのです。
外資系広告代理店の場合は、営業がオリジナルのコピーを翻訳し、その翻訳をもとにコピーライターがトランスクリエーションをし、出来上がった日本語版のコピーについて本国のアプルーバル(承認)をもらうために営業が制作意図や日本語版のコピーを逆に英訳したコピーなどをまとめた資料を作成してプレゼンする、というように分業制になってることが多いです。ですが、私の場合は、英語のオリジナルコピーが届いたら、それを頭の中で翻訳しながら日本文化への適応性やブランドらしさ、オリジナルコピーのテイストなどを踏まえた上でコピー開発をして、自分でプレゼンして本国のアプルーバルをもらうというように一気通貫で行えるので、自分の強みを最大限に活かせる業務だと思ってます。
ちなみに、アダプテーション業務においてはトランスクリエーションをせずにそのまま英語のオリジナルコピーで行く場合もあります。その際も、日本文化への適応性やブランドらしさなど様々な観点から検証を行った上で慎重に判断をする必要があります。
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