ゴールドシップからブランディングとブランド戦略を学ぶ:ネーミング編

母方のお祖父様であるメジロマックイーン譲りの可愛い顔に、G1レース通算6勝という圧倒的な実力。お父様のステイゴールドから受け継いだ知性とお祖父様のメジロマックイーン由来の恵まれた馬格、そして無尽蔵のスタミナ。自分の気持ちを尊重した自由闊達な「魅せるレース運び」でファンだけではなく多くの観客を魅了した芦毛のスターホース、それがゴールドシップです。彼の人気は天性の資質や本人の努力はもちろん、陣営の方々の愛情とご尽力の賜物ですが、その熱狂の裏側には「強いブランドを作るためのヒント」が隠されていると思います。なぜゴールドシップはこれほどまでに愛され、記憶に残る存在なのか。その核心に迫るべく、シリーズ第一弾としてゴールドシップから学ぶブランディングとブランド戦略:ネーミング編」をお届けします。

ゴールドシップの名前の由来

JRAの資料によると、ゴールドシップの馬名の由来は「黄金の船」で、お父様のステイゴールドからの連想になります(ステイゴールドは、香港ヴァーズ出走時に中国語で「黄金旅路」と直訳されました)。ブランディングの視点では「ゴールド」と「シップ」の造語ネーミングと言えます。

競馬は血統のスポーツなので、お父様のステイゴールドの名前の一部を継承することで、「Stay Gold」の英語の意味「純粋なままでいて」「いつまでも輝き続ける」「自分らしさを失わない」といった情緒的なニュアンスも内包させています。

また、お父様の香港での別名「黄金旅路」から連想される「旅」を、「船」というワードへと発展。父の歩んだ路(みち)を、力強く航海していくイメージへと昇華させています。

血統という「歴史」を重んじながら、新しい「物語」を感じさせる。非常に情緒的で、戦略的にも優れたネーミングです。

ゴールドシップの名前の語感

ゴールドシップの馬名は「ゴールド」と「シップ」の造語ネーミングなので、二つに分けて語感の解説をしていきたいと思います。

「ゴールド」の音の最大の特徴は、2つの濁音(ゴとド)が入っていることです。言語学的な側面で見ても、濁音は空気の振動が強いため、「力強さ」「重厚感」「エネルギー」といったイメージを抱かせます。「ガンダム」「ドラクエ」「ゴジラ」「ジャンプ」など、ワクワクやドキドキを象徴するエンタメ作品の多くに濁音が使われている通り、濁音から始まるネーミングは特に男性をターゲットとした商材や、勝負の世界である競馬と非常に相性が良いと言えます。特に、冒頭の「ゴ」の母音は「o(オ)」です。オ段の音は、日本語において「深み」や「大きさ」、そして「揺るぎない存在感」を示す傾向があります。更に、「ラ行」の音は弾いて出す音のため華やかなリズム感を生み出します。まさに、競馬界のスターホースとしての「風格」と「華」を、音の響きだけで定義しているのです。

続いて、「シップ」の音の特徴は、風や疾走感を連想させるサ行から始まり、破裂音のパ行で終わっているところにあります。特にSHIの音は、光が差し込むような明るい響きを持っており、「颯爽と駆け抜ける清涼感のあるスター」を連想させます。また、「PU(プ)」の音は、文字通りポップで軽快な印象。完璧に整いすぎない弾けるような響きが、どこか親しみやすくチャーミングなキャラクターを際立たせます。さらに「u(ウ)」の母音は、日本語において「内側に受け止める」性質を示すため、ファンを始め周囲の熱意を大らかに受け止めてくれる、寛容なポップスターのイメージを象徴しているのです。

また、弊社はインターナルブランディングの領域で「オンボーディング」施策も対応しているのですが、この「Onboarding」は「on board(船や飛行機に乗っている)」に由来します。ゴールドシップの勤務先であった須貝厩舎の調教師・須貝先生と厩務員の今浪さんがゴールドシップのことを、「シップ」と呼ぶところに「同じ船に乗る仲間」としての大きな愛情を感じるのは私だけでしょうか。

省略できるネーミング=人気

省略できるから人気になるのか、人気だから省略形のニックネームができるのか。きっと両方なのだと思います。ゴールドシップは、「ゴルシ」の相性で多くのファンに愛されています。日本で愛されるネーミングには、ポテチプリクラ、ミスチル、ドラクエのように3文字・4文字に略せるという法則がありますが、ゴールドシップも非常に収まりの良い省略形ができるというところにも人気の秘密があったのではないでしょうか。「ゴルシ」という語感からファンはゴールドシップの一挙手一投足にワクワクドキドキして、その華やかな存在感、疾走感、光に魅了されているのだと思います。